「地方集落の新たなコモンズとして」
長野県上田市郊外にある築100年の古民家を次の100年に残すべく減築+改修し、東京で働く施主の週末住宅兼・施主のご両親の終の棲家として再生した。
当初は既存建物を解体する予定だったが、現地を訪れて感じた「のどかさ」をきっかけに、この地方集落の風景を保存・更新し、引き継ぐことが使命であるように感じはじめ、ふと見上げた梁に書かれた上棟の日付がちょうど100年目であったことが決定打となり、残された古民家を活かす方針となった。
100年の時間をかけて増改築された古民家はツギハギ状態であったため、生活に必要な面積を割り出し余剰部分は減築し、既存の構造体を確認しながら100年前の骨格をなるべく復元していくように古民家を丁寧にほどいていった。
そして、地元の宮大工の知見を借りながら伝統工法による軸組の特性を活かした構造補強を施し、壁の少ない柔構造ならではの開放的なプランを実現している。
将来的には施主の専用住宅兼ゲストハウスや地域に開放される私設ギャラリーとして活用するなど、時間を経てプログラムが変化していくことを想定し、世代を超えて地域に根付く地方集落のコモンズとしての住宅の在り方について模索した。
新たな背骨としての棚壁と4つの水平連続窓
南北それぞれに異なる魅力を持つ敷地環境に対し、南側にリビングダイニング/北側に書斎を既存躯体をなぞるように配置した。
また、南側の明るくまとまりのある庭/北側の水平に広がる山並みを住宅内に適切なスケールで取り込むべく、南北それぞれの異なるプロポーションの水平連続窓を設けている。
結果として現れた東西にリニアな平面の中央に住宅の新たな背骨となる長い棚壁を挿入している。
この棚は既存躯体の構造補強材という役割だけではなく生活と言う記憶の受け皿でもあり、南北2つの環境を相対化する物差しとして位置付けている。
本棚にも水平連続窓を設けて風景を繋ぎ、住まい手のお気に入りのモノたちを通して、住まい手の記憶と南北の環境を融和させるシーンを挿入している。
さらに書斎上部の既存軸組アラワシの小屋裏もひとつの環境として捉え、書斎の天井にも連続窓(アクリル天井)を設け、吹き抜けを介した立体的な繋がりを作り出し、空間に広がりと奥行きを与えている。
北側の安定した柔らかな光は書斎のテーブルで反射し、天井の連続窓を通り、小屋裏と書斎天井の間でさらにバウンドし、吹き抜けを介して2階にまで光を拡散する。
また2階からは天井の連続窓と書斎の水平連続出窓まで視線が斜めに貫通し、北庭まで眺めることができ、ここでも生活と環境の融和を図っている。
不要な増築部を減築して元ある姿に戻し、既存躯体の特性を活かしながら構造体を修繕、新たな骨格と多くの水平窓を挿入する。
なるべく単純明快な所作とすることで、地域にとって参照しやすい改修モデルとなることを期待し、写真や言葉では表出しにくい汎用性の高い空間の在り方を目指した。
photo / Kenta Hasegawa(OFP)
2022年10月17日
この家が102歳を迎え、施主と家の誕生日を祝い合いました。
毎年のように誕生日を祝ってもらえる家のことを微笑ましくも愛らしくも誇らしくも思うのでした。